出社というリフレッシュ

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出社というリフレッシュ

オフィス出勤には、リフレッシュ(レスパイト)の意味があった

出社する必要がない・・・。それが本当であれば、在宅勤務は、コロナ以前から、もっと広がっていたとは思いませんか?在宅勤務で問題が起こらないのであれば、交通費やオフィス費用も節約できますし、コロナのリスクが顕在化するずっと前に、在宅勤務が当たり前になっていたはずです。だからといって、コロナ以前の状況に戻るべきだといいたいのではありません。それは(きっと)不可能です。であれば、いまいちど、オフィス勤務の持っている意味を整理して、在宅勤務でそれが失われないように工夫することを考えるのが大事だと思います。

育児・介護(家族ケア)から解放される時間

育児・介護(家族ケア)から解放される時間

育児・介護の現場が自宅という人は多数います。特に、コロナへの感染リスクを避けるため、幼稚園や託児所が休止となっている場合や、デイサービスなどの介護事業者に介護をお願いすることができない場合は、自宅だけが、育児・介護の現場になります。そうした状況において、在宅勤務が推奨されることは「よいことだ」というのは、必ずしも正しくありません。

実は、自宅を離れる「正当な理由」があれば、従業員は、育児・介護の現場を離れることができます。そこに罪悪感は生まれません。職務規定で、出社の義務が記載されていれば、それこそが「正当な理由」です。オフィス勤務には、育児・介護の負担を抱えている従業員に対してリフレッシュとしての意味があるわけです。当然、オフィス勤務をしている時間は、育児・介護から解放されます。

オフィス勤務と在宅勤務を本人が選べるようになることは、こうしたリフレッシュを破壊してしまいます。育児・介護の現場を離れる「正当な理由」が消えてしまうからです。出社の義務があれば、育児・介護を誰かに任せて「仕方なく」現場を離れることが可能です。しかし、出社の義務がないところでは、現場を離れるかどうかは本人の判断です。そして自分の意思で育児・介護の現場を離れることは、大きな罪悪感を生み出してしまいます。

注意してもらいたいのは「だから、オフィス出勤も必要だ」ということにはならない点です。在宅勤務は、本来、仕事をする場所を規定しない、より自由で通勤時間の無駄をなくせる働き方です。それは、今後、もっと拡大されていくべきことだと信じています。ここで問題にしているのは、在宅勤務によって失われる可能性のある価値もあり、そうしたことは、別の方法で補う必要があるのではないか、ということです。

夫婦で勤務形態が異なる場合の地獄

夫婦で勤務形態が異なる場合の地獄

多くの会社で、在宅勤務を基本とし、脱オフィスが進められています。その過程で、育児・介護から一切離れられなくなっている従業員が生まれています。育児・介護と仕事を同時にこなすことは、多くの場合、不可能です。共に在宅勤務の夫婦が交代で対応できる場合もあるかもしれませんが、それが原因で、夫婦の関係性が悪化することもあります。

共働きの夫婦について、少し想像してみてください。夫の会社には出社の義務があり、妻の会社は在宅勤務になっていたとします。夫は、日中、育児・介護をせずに「仕方ないだろう」と出社し、オフィスで働くでしょう。この間、妻は、育児・介護のワンオペをしながら、仕事をしなければなりません。この夫婦は、喧嘩せずにいられるでしょうか。この夫婦は、公平に、育児・介護の負担を分散させられるでしょうか。

困ったことに、在宅勤務への対応は、企業によって異なります。夫婦ともに完全在宅勤務だったり、夫婦ともに完全オフィス勤務だったりすれば、喧嘩は避けられるかもしれません。しかし、対応に差がある場合、その環境こそが、夫婦の関係性にヒビを入れる原因となるわけです。ストレスがたまり、本来であれば仲良くあれた夫婦が喧嘩をするのも仕方ないでしょう。

もちろん、託児所やデイサービスなど、在宅勤務をしながらも活用できるサービスが活用できれば、それで問題ないケースもあります。ただ「在宅勤務しているのだから、子供を託児所に預ける必要はない」とか「在宅勤務なのだから、介護も同時にやれるだろう」というのは違います。在宅勤務と育児・介護は、同時にやれないということを強調したいのです。

レスパイト(respite)は在宅勤務リテラシーの重要な一部である

レスパイト(respite)は在宅勤務リテラシーの重要な一部である

こうした状況を改善する概念として、レスパイト(respite)という言葉があります。本来の意味は「(負担の)一時的な休止」といったところです。育児・介護の現場にいて、そこから離れられない状況にある人に対して、レスパイトを提供することは、非常に重要なのです。共働きで、夫だけに出社の義務があり、妻が育児・介護の現場を離れられない場合、妻のレスパイトを真剣に考える必要があります。それがないと、ひどいことになるからです。

育児・介護を必要とする家族のある従業員の在宅勤務には、レスパイトが必要です。これは在宅勤務を進める上で「絶対に知っておくべきリテラシー」です。育児・介護のプロであれば、レスパイトがいかに重要であるかを理解しています。レスパイト専用のサービスも多数あります。しかし、世間一般には、レスパイトという概念は浸透していません。そして、レスパイトという言葉を知らなければ、レスパイトのサービスを検索することもできないでしょう。

部下に対して「在宅勤務なのだから、しっかりレスパイトを考えながら、託児所やデイサービスを活用しよう」といえるマネージャーが増えていく必要があります。レスパイトは、在宅勤務リテラシーの重要な一部です。こうしたリテラシーなしに、ただ在宅勤務を進めてしまうことが、いかに従業員を傷つけることになるか、経営者が想像力を働かせるべき場面です。ただ無邪気であることは、在宅勤務を進める上で大きなリスクになります。

(当初公開した内容の一部に修正を加えました  2020.6.17)

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