#家族介護のコツ

【現状把握】親の「お金事情」を把握する

#家族介護のコツ

第一回

「ビジネス思考」で介護を乗り切る体験エッセイ『今日も私はシゴトを辞めない!』

「突然親が倒れた! シゴトと介護の両立はできるのか!?」

母も父も突然倒れ、いきなり同時多発介護になった独身ワーキングウーマン・中村美紀50歳。まるでわからない介護なのに、父母の容態が変わるたびに次々と起こる問題に、仕事一筋の経験を活かした「ビジネスフレームワーク」を使って、なんとか解決策をひねり出し、乗り切っていくコミカルな体験物語ーー。

突然母が倒れた!容態が心配!お金も心配!

「頭が痛い…」

母からの携帯電話。か細い声でつぶやいた後、その後反応がないーー。

私は母父の三人暮らし。二階でシゴトをしている私に、一階にいる母からの携帯電話がかかってきました。

「なんで一階からわざわざ携帯に電話? 二階にいるんだから声をかけてくれればいいのに」出てみると、か細い声で母がつぶやきました。

「頭が痛い…」 その後反応がありません。まずい!

急いで一階に降りると、母がうつ伏せで倒れていました。声をかけても反応がありません。驚いて救急車を呼び、父と病院に向かいました。

母は脳の手術をすることになりました。

医師から細かい説明があり、その後、入院手続きや必要書類の説明などをわーっと受けました。

母はそれまですこぶる健康でした。あまりにも突然の出来事で、私も動揺が激しく、説明がひとつも頭に入ってきません。

手術が無事終わっても母は容態が安定せず、しばらく集中治療室に入ることになりました。

母の意識が戻らない間、私は何も手につきませんでした。数週間経って意識が戻り、私もやっと我に返った感じです。

しばらくして病院から請求書がきているのに気づき、現実に引き戻されました。

請求額、数十万円。どえー!

取り急ぎ立て替えておこう、と支払いましたが、数カ月目には軽く数百万を超えました。

この先入院が長期化するかもしれない。ましてや介護になったら、ますますお金がかかるのに、シゴトを続けられるかどうかわからない。

「わ、どうしよう…」

人生が一気に不安だらけになりました。

「母の心配」「お金の心配」「シゴトの心配」でお先真っ暗。

問題解決思考で、親の「お金」を把握。親のお金を触る罪悪感を、ビジネス思考で乗り切る

親の入院・介護のお金問題。どうすればいいのかさっぱり見当がつきません。

私はもともと編集出身。わからないことがあれば、情報を集めます。めぼしいサイトを漁り、本を数冊買って、ざざざと調べてみると、「親の入院・介護費は、親のお金で支払うのが鉄則」と複数の専門家が口をそろえて提言していました。

なるほど! 今まで親のお金を触ることに罪悪感がありましたが、これで割り切れました。

「親の入院・介護費は、親のお金から払おう!」

とはいえ、決断はできたものの、私と親は生計が別。親のお金事情はまったく把握していないので、どのくらいお金があるのか、どこからどう払えばいいかわかりません。

父に聞いても、すべて母任せだったようで「わからない」の一点張り。母は、意識が戻ったものの、半身麻痺で失語・失行。話ができる状態ではありません。

母の状態から、入院費だけでなく、日々の生活費、この先かかるであろう介護費なども視野に入れ、長期目線での経済設計をしておく必要があります。

私はシゴトばかりの人生で、家事炊事はもちろん、お金の管理は大の苦手。長い間一人暮らしをしていたので自分の管理はできますが、それが精一杯。親の分まで人生設計するなんて、まったくイメージが湧かず、プレッシャーがのしかかります。

「わ、どうしよう…(ニ回目)」

おシゴトだったらどうするか? 問題解決の第一歩は「現状把握」。フレームワークにあてはめると…考えがまとまりやすい私。

であれば! 親のお金事情を把握したいなら、「何を」把握すればいのか考えればいい。取り急ぎ以下2点で整理してみることにしました。

親のお金の現状把握 ①銀行口座の把握。

銀行口座、通帳、カード、暗証番号を把握。把握だけでなく、どの銀行口座でも動かせるようにするまでをゴールとしてみます。

親のお金の状把握 ②支払い先の把握。

何に、どのくらい払っているのか。光熱費など、定期的に引き落とされているものは把握しやすそうですが、買い物・ガソリンなど不定期なものは、把握に手間がかかりそうです。

問題解決の思考ステップ「現状把握」

思考の整理がついて、いよいよ探索。親の通帳のありかも、光熱費などの請求がどうなっているのかも一切わかっていなかったので、家中の保管場所や引き出しを、終日かけてすべてさらいました。

家の中は、まるで盗難にあったように、ひっちゃかめっちゃかになりましたが、通帳も無事みつかり、支払い明細も発見。どこにあるか私が知らなかっただけで、みつけたら、母は丁寧に整理しており、家のことが苦手な私でも把握しやすかった。ここに母の面影をみるなんて。母に感謝しました。

そして、まずは銀行対策です。通帳を握り締め銀行をひとつひとつまわり、事情を話して動かせるように依頼しに行きました。

銀行…これが大変でした。もちろんです、銀行口座は基本本人しか動かせない、というのがベースです。

ある銀行には事情を話し、引き落としができるように依頼。

ある銀行にはカードの作り直しを依頼。

ある銀行には暗証番号の再設定を依頼。

すべての銀行で揉めに揉めましたが、なんとか動かせるようになりました。何度も銀行に通い、何度も話し合った末でした。個人情報まわりのルールが厳しくなっている中で、動かせるようになったのは奇跡に近い。

みなさん、声を大にして言います。銀行の対応は年々厳しくなっている印象です。この原稿を読んでいただいたのが吉日、「親の銀行口座はすぐ動かせるように、この時点で対策を立てた方がいい」です!

そして、支払い先に関しては、明細が見つかったので、カテゴライズしファイリング。

定期的に発生する光熱費の類からカードの支払い控え、そして不定期に発生する母の趣味関連、額の大きめな家や車の修理類なども整理したことで、「何が」「どの口座から」「いつまで支払済」なのかが把握できました。

こうしてやっと、親のおおまかなお金事情が把握できました。判断の元となる情報が把握できたので、この先新たに発生した支払いの対応ができるように。

これで、親の入院費の支払いの目処がたちました。

親のお金事情を把握するのに、書類という書類をファイリング。これで振り返りもらくちん。

親のお金で把握しておいた方がいいことをラインナップ。「親のお金リスト」を作成する

よく「親にお金のことを聞いても、話したくない!と拒否される」という話を聞きます。

本当に、お金は自分のことでも大変。ましてや親の分までなぜやらないといけないの!?いざと言う時のために、把握してあげようとしているのに、なぜ拒否するの!? 

これが子の本音。私も今でもそう思っています。

でも!でもでも!!

会話ができる状態のうちに、話しておいた方が絶対いい! 私は突然親と会話できなくなったので、想定外の大変さに見舞われました。

今から準備、大切です。

ここにお金まわりで準備しておいた方がいいことをリストにしてみます。

●親のお金を把握する「銀行口座関連」

理由:入院・介護費用などの支払いのために把握

  • 銀行口座
  • 通帳
  • カード
  • 暗証番号
  • 財布

など

●親のお金を把握する「日常生活関連」

理由:日々の生活や、支払いもの関連の把握(現金払い・カード払い・キャッシュレッス決済のなど、支払い形態の把握も含む)

  • 光熱費(電気・水道・ガスなど)
  • 通信費(家電話・携帯電話など)
  • 食費
  • 保険料(生命保険・車保険・家保険など)
  • 家の設備等の修繕費
  • 親の趣味代
  • 親小遣い

など

親の突然の入院・介護に対応するための、最初に立ちはだかる大きな壁のひとつが「親のお金」。

私は、親のお金を把握したことで、主介護者として親の入院・介護人生を背負うイメージが湧きましたし、自分の日常を取り戻す第一歩が踏めました。

これで、ひとまずシゴトを辞めなくてすみそうです。

ひとつひとつ山を乗り越え、今日も、心の中で叫びます。

「こうして私はシゴトを辞めない!」

まとめ

・親の突然の入院・介護。先立つものはお金。お金問題を解決しないと、何も先に進めない。

・人様のお金を把握するのは、想定以上に大変。今から親のお金について把握して損はない。

・把握しようと親と話そうとしても拒絶される…。「自分のお金を人にいじられたくないと、拒否するのが当たり前」と思って、揉めに揉め、喧嘩をしながらでも、親のお金の把握に努める。喧嘩もコミュニケーション、出来るうちが華、と割り切る(希望)。

次回予告
連載第二回【現状把握】親の「ヒト事情(交友関係)」を把握する

●プロフィール
中村美紀
クリエイティブコンサルタント・編集ディレクター
 (株)リクルートグループに20年在籍。副編集長・デスクとして10以上のメディア実績を持つ。2012年に独立。紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ教育・組織コンサルタントなどで活動中。国家資格キャリアコンサルタント・米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。

HP https://miki-nakamura.com/

介護ブログhttps://oyakaigo.miki-nakamura.com/

この記事は専門家に監修されています
 介護プロ
木場 猛(こば・たける)

株式会社チェンジウェーブグループ リクシスCCO(チーフケアオフィサー)
東京大学文学部卒業。2001年の在学中から現在まで22年以上にわたり、介護士・ケアマネージャーの現場職として、2,000世帯以上のご家族を担当し、在宅介護、仕事と介護の両立支援に携わる。
著書:『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書(日経クロスウーマン)』https://amzn.to/3ryjZNg

この記事をシェアする
介護情報の国内最大級メディア | ライフサポートナビ
タイトルとURLをコピーしました