【イベントレポート④】ビジネスケアラーの「実践サバイバル術」とは<崎山さんのケース>

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2022年9月16日、リクシスは、第1回『全国ビジネスケアラー会議』を開催いたしました。本オンラインセミナーは、高齢化の流れが加速する日本社会において、現役世代として働きつつ、同時にご家族の介護にも携わっている「ビジネスケアラー」の方々、そして、その予備軍となる皆様に向けたセミナーです。イベントの中では、在宅医療のトップランナーであられる専門医による最新の知見や、ビジネスケアラーとして親族の介護と仕事の両立を果たしてきたお二方の生のお声などをいただきました。
(プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000057.000038460.html

<当日のプログラムおよび登壇者>
第一部【基調講演】 「在宅医療の最前線『老いのメカニズム』とご家族のリテラシー」
講演者:佐々木淳先生(医療法人社団悠翔会理事長・診療部長)
第二部【パネルディスカッション】 「ビジネスケアラーの『実践サバイバル術』とは」
登壇者:崎山文乃氏、大屋奈緒子氏、佐々木淳先生、弊社大隅聖子、木場猛

本記事では、第二部のパネルディスカッションのうち、崎山文乃氏のケースを中心にご紹介します。

ビジネスケアラーの「実践サバイバル術」とは<崎山さんのケース>


パネルディスカッションでは、ビジネスケアラーとして仕事と介護の両立を実現してきたお二方をお招きして、介護の始まりの戸惑いから、さまざまな課題を乗り越えていった経験まで細かく伺いました。
パネリストには介護と診療、それぞれ専門の先生方にもご参加いただくことで、プロのお立場からの意見もカバー。ビジネスケアラーの先輩による貴重な生の声と、専門家による豊富な知識に裏打ちされた、実り多い質疑応答の時間が生まれました。

<登壇者プロフィール>
崎山 文乃(さきやま・あやの)

株式会社ディー・エヌ・エー ビジネスケアラー歴 約3年

木場 猛(こば・たける)
株式会社リクシスCCO(チーフケアオフィサー)
ヘルパー歴22年以上。介護福祉士・ケアマネージャーとして1000組以上のご家族を担当。

佐々木 淳(ささき・じゅん)
医療法人社団悠翔会理事長・診療部長
全国に21のクリニックを展開し、約7000名の在宅患者へ24時間対応の在宅総合診療を行っている。

大屋 奈緒子(おおや・なおこ)
日経xwoman副編集長 ビジネスケアラー予備軍 モデレーターとして参加。
未介護層の立場から、仕事と介護の両立について有益な意見を引き出していく。

まずは、地域包括支援センターに電話をかけた

崎山さんの介護の始まりは、2019年1月の帰省中にお父様から投げかけられた、「母の様子がちょっとおかしいんだよね」というひと言でした。 お父様から相談を受けたタイミングで、お母様にはすでに「食器を元とは違う場所にしまう」、「○○がない、と言い続ける」といった、認知症の典型的な症状が出ていたと言います。 念のため病院に行ってみると、診断は「認知症診断の一歩手前」。当事者であるお母様も自分の不調を自覚していたため、併せて精神科の受診も行ったそうです。

崎山一人娘なので、「まさか親が認知症に」というショックがありました。ですが、母はもちろん、父もすぐに対処できそうではなかったので、事前準備や情報収集は自分がやるしかないと思い、いろいろ調べていく中で「地域包括支援センター」の存在を知ったかたちです。勇気を絞って地域包括支援センターに電話をするというのが、ケアラーとしての私のスタートだったように思います。

崎山さんは地域包括支援センターを経由して、なんとかお母様の要介護申請にこぎつけました。

崎山要介護申請は通ったものの、実際に介護サービスを利用するまでには割とハードルがありました。うちの親が現在84歳なのですが、あの年代特有の「家に他人が入ることへの忌避感」を払拭するのがけっこう難しかったんです。その後、父に大腸がんが見つかったりして、「介護サービスを導入しないと物理的に立ちゆかない」という状況になったため、何とかサービスの活用が始まりました。

ある程度安定したケア体制を構築したのちも、崎山さんにはさまざまな壁が立ちはだかります。お母様が誤嚥性肺炎を起こしたり、解熱のお薬による副作用に悩まされたり、お父様が腰痛で要介護状態になってしまうなど、何度も波があったと言います。ですが、そのときどきで訪問診療の先生やケアマネージャーと相談をして、何とか乗り切ってきたとのことでした。

介護サービスと医療を組み合わせて、1日1回の訪問を実現

お母様の認知症が発覚してから3年間に起きた、さまざまな困難。その間、そして、現在も続く介護を、崎山さんはどうやって仕事と両立させているのでしょうか。

崎山現在勤めている会社が完全にリモートワーク対応しているのと、裁量労働制でかなりフレキシブルに仕事時間の融通が利くことが、両立がうまくいっている秘訣だと思いますね。東京の自宅と神奈川の実家に同じようなリモート環境を作って、いざというときは実家からでも仕事ができるようにしています。

介護サービスの面では、訪問診療の先生に月2回、訪問介護を週2回、他に訪問入浴とデイサービス、歯科医師の往診などの予定を入れることで、「1日1回は必ず、公的サービスが実家に訪れる状況」を作り上げたそうです。

崎山母を介護している父に何かあっても、「24時間以内には必ず見つけられる」という状況が安心感につながっています。また、父にはLINEを通じて、起床時と就寝時の2回、生存確認のメッセージを送ってもらっています。

リスクとコストを勘案して、納得できることをやる

崎山さんのケース紹介が終わると、ディスカッションは質疑応答へと移りました。

大屋職場によっては介護休暇を取りにくい場合もあると思います。介護休暇を取るコツ、職場に理解してもらうためのヒントなどはありますか?

崎山私の職場にも介護休暇や介護休業の制度はあるのですが、仕事柄、やはり「まとめて休みを取る」というのはやりづらいです。一方で、私は職場内ではやや年上のほうでして、同僚や上司は第一子、第二子の子育て真っ最中の人が多いんですね。すると、彼らも育休を取るので、その「バタバタ感」は同じというか、ちょっぴり感覚共有はできている気がします。あと、職場に対して「うちの状況をあんまり包み隠さず伝えること」は徹底しました。父が坐骨神経痛になったときも、「介護体制が崩壊したので、ちょっと仕事の優先度を下げます!」と宣言してご協力いただけたので、理解してもらえてありがたいなと感じています。

大屋お母様の介護は、始まりのときと今とでは、なにか変化はありましたか?

崎山最初に「おかしいな」と思ったときは要介護1で、今は要介護4まで上がりました。ただ、症状が進んでしまった、ボケ切ってしまった今でこそ、母本人は安定しているのかなとも感じています。母の認知症はアルツハイマーにレビー小体型が混ざった感じだと思うんですけど、始めのころは幻視や幻聴に悩まされていて、「黒い人がいて怖い」と言ったり、精神的にかなり不安定だったことを憶えています。母は現在では天真爛漫で、食べたいときに食べて、寝たいときに寝る、わがままな子どもみたいになって、父が振り回されています(笑)。

大屋佐々木先生、専門家の観点からコメントはいかがでしょうか?

佐々木まず一つは、「認知症は変化をしていくものだ」ということですよね。発症直後は軽くて、「ちょっと物忘れが増えたな」というところからのスタートですが、だんだんと日常生活を送ることが難しくなっていき、人によっては崎山さんのお母様のように、幻視や幻聴が出てきたり、記憶障害によって現状認識ができなくなることもあります。そうなってくると、ご家族にも急速に負担がかかりますし、「自分が原因で家族が苦労している」という思いは、お母様ご本人にもさらなる負担になります。この辺りで共倒れになってしまうご家庭も少なくない中、崎山さんは上手に退きつつ、うまくがんばってこられているなと思いました。

大屋認知症が進むと、徘徊であるとか、ケアする側に大きな負担がかかることがあると思います。ご実家ではお父様が中心となって介護をされているとのことですが、認知症対応の工夫はありますか?

崎山徘徊によって母が出ていったことは2回ほどあります。マンションに住んでいるので、幸い、敷地からは出ていかず、隣家の方にお届けしてもらえました。その経験があった後は、センサー付アラームを玄関につけたりして、対応策を講じています。

大屋崎山さんのケースは、さまざまな工夫や仕組みづくりの上手さが際だっていると思います。木場さんから見て、他にも良い点はどこにあると思いますか?

木場いろいろな葛藤がある中で、ご家族としての立ち位置を上手に見つけてこられたんだな、と感じました。特に、「何かあっても24時間以内に見つけられれば」というのは、本心としてはご両親のことがとても心配だと思うのですが、その葛藤を乗り越えて、上手にリスクを見積もっておられると思います。ご自分から「ケアに割くぶんはこのぐらいにしておこう」と落とし所を設定できたというのは、本当に感嘆しました。

「介護」と「自分の人生」は分けて考えるもの

パネルディスカッションの最後には、全国にいるビジネスケアラー予備軍の方々に向けて、ケアラーの先輩である崎山さんや専門家の佐々木先生からコメントがありました。

崎山ケアラー予備軍の方からすると、「いつ何が起こるかわからない」みたいなところで、すごく不安に感じることが多いと思います。実際、私もとても不安でしたけれども、今はネットやSNSなど便利な時代ですので、そういったツールを活用して、情報をたくさん集めて、乗り切っていってほしいです。私も、最初の「ちょっと母の様子がおかしい」というときから、ネットでいろいろ検索する中で、「地域包括支援センター」という単語に出会いました。

できる範囲で、少しずつ準備をしておくだけでも、いざというときの心持ちはだいぶ変わってくると思います。万端ということは絶対ないにしても、やってみれば何とかなる部分はきっとありますので、不安になりすぎず、「自分の人生はちゃんと生きる」ということも考えながら、介護に向きあっていくのがいいのかな、と考えています。私もまだまだ引き続き介護中なので、その気持ちを忘れずにがんばっていきたいと思っています。

佐々木ご両親や、おじいさんおばあさんとの関わり方が急速に変化をしていきますし、介護って本当に大変だと思います。そんな大変な中で、「ご自分の生活も継続しながら、ご両親やおじいさんおばあさんの生活も継続をしていく」というところが、やっぱりすごく重要なんです。家族というのは、ときに利害が対立することもあるんですよね。こっちとしては「おじいちゃんおばあちゃんのために」と思ってるんだけど、なんかやっぱり「自分のために」みたいなところが出てきてしまうこともある。特に、あまり言いたくはないのですが「財産が絡む」ことがあったりすると、けっこうドロドロになってしまう事例も僕はけっこう見てきています。やはり、「その世帯はその世帯」という、世帯単位で見ていくことが必要だと思います。

どういう関わりがお互いにとって快適なのか」をしっかり考えて、早い段階で専門家に相談をしていくということが重要です。現代には、いろんな選択肢があります。私たちが在宅医療を提供してる方の25%は一人暮らしですよ。家族はたまにしか来ない。だけど、要介護3でも4でも、そういうふうに生活できるし、「要介護5だったらどうですか?」と言われると、寝たきりになっちゃうので、逆に言えばケアしやすいんですね。老人ホームに入ったとしても、けっきょくは個室ですから、おうちで看ててもホームで看てても、介護サービスがうまく組めればそんなに大差はないんです。「抱え込まずに、経験者や専門職に相談していく」ことを強くおすすめします。

▼同イベントでの基調講演レポートはこちら
【イベントレポート①~③】在宅医療の最前線 『老いのメカニズム』とご家族のリテラシー

近日公開予定
⇒【イベントレポート⑤】ビジネスケアラーの「実践サバイバル術」とは<大隅さんのケース>

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